なぜ、わざわざ暑い時期にオリンピックは開催されるのですか。
猛暑の時期にオリンピックが開催されることを疑問に思う方は多いはず。
事実、開催中の東京オリンピックでは、次のような報道がなされている。
7月23日、東京五輪に参加するアーチェリー女子のスベトラーナ・ゴムボエワが、熱中症のために一時意識を失った。
7月25日、世界ランキング男子1位のノバク・ジョコビッチ選手(セルビア)が「今まで経験した中で最悪の暑さ」「常に脱水状態」と、試合の時間変更を求めた。
日本の夏は湿度が高く、台風の襲来も多く、特に野外スポーツの大会には適さない。
1964年の東京オリンピックは10月に開催され、翌々年、オリンピック開始日の10月10日は「体育の日」と制定された。
猛暑の真夏にオリンピックが開催されるのは不自然だと思うが、なぜあえてこの時期に?
答えは欧米のテレビ局の「放送権料」にあった。
1964年の東京五輪は10月開催だったのに、なぜ?
1964年の東京オリンピックは、涼しくて湿度も低い快適な10月10日〜同24日に開催された。
4年後のメキシコ五輪も同じく10月に行われた。
だがその後、いつの間にかほとんどの夏季五輪は7、8月に開催されるようになった。
夏が涼しい地域なら納得もいくが、蒸し暑くて台風も心配される日本でこの時期に開催されるのはなぜなのか、誰でも疑問に思うだろう。
米メディアの都合で決まるオリンピック
オリンピック開催期間が7、8月に変更されたのはなぜか。
その答えは、テレビ局の都合だ。
つまり、簡単に言えば、米国のテレビ局が支払う放映権料が莫大なためIOCがそれに靡(なび)いたということなのだ。
IOCにとってオリンピックの最大の収入源が、この放送権料なのだ。
夏期は五輪以外に世界的なスポーツイベントが少なく、テレビ局はこの「農閑期」に利益を得るため、つまり視聴率獲得のため、莫大な放送権料を支払うのだ。
夏季五輪が10月開催となると、オリンピックの価値が薄れる。
なぜなら、その時期にはすでにさまざまなスポーツ大会の契約が存在するからだ。
9月から10月の米国では、ナショナルフットボールリーグ(NFL)のシーズン開幕や野球の大リーグ(MLB)プレイオフといった他のスポーツイベントがあるため、その時期にオリンピックが開催されると視聴者を奪い合うことになってしまう。
欧州でもサッカーシーズンの序盤とぶつかり、テレビ局にとっては都合が悪い。
アメリカは1大会あたり1,200億円の放送権料を支払っており、それは世界の半分に相当し、オリンピックに関し大きな発言力を持っているのだ。
たとえば、NHKと民放が合同で購入した平昌五輪と東京五輪2020の放送権料は、660億円だ。
1大会あたり330億円とすると、アメリカの1,200億円の四分の一近くに過ぎない。
アメリカは、こうして五輪の開催期間や競技の時間などの決定に大きな影響力を持っているのだ。
東京オリンピック7、8月開催は、IOCの要求
今回の2020オリンピックに東京が立候補した時も、IOCは五輪の立候補都市に対し、7月15日から8月31日までの間に開催することを求めた。
そして東京は7月24日から8月9日を開催期間とした。
立候補都市は代替日を一応提案できるが、認められるのは稀だ。
かつて2020年夏季五輪に立候補した中東カタールの首都ドーハがは10月開催を提案したが、オリンピック放送機構(OBS)とIOCテレビジョン・アンド・マーケティング・サービスSAは、2012年4月に公表したオリンピック作業部会の報告書の中で、否定的見解を示した。
五輪大会が7、8月に開催されれば、ゴールデンタイム視聴率の首位を獲得する「お墨付き」を放送局に与えることになるが、10月の開催では、テレビ局は低い視聴率に直面することになるというのだ。
莫大な放映権料を支払う米メディア
すでにレギュラー(?)契約が済んでいることも影響しているのかもしれない。
米メディアによると、米テレビ局NBCは、2014年のソチ五輪以降の4大会で43億8,000万ドル(約4,800億円)、2022〜2032年の米国における夏冬6大会分の独占放送権を76億5,000万ドル(約8,400億円)でIOCと契約した。
これは1大会あたり12億ドル、日本円に換算すると、1,320億円となる。
その金額は世界の全放映権料の半分に相当し、そのためNBCはオリンピックに関し大きな発言力を持っているのだ。
たとえば、NHKと民放が合同で購入した平昌五輪と東京五輪2020の放送権料は、660億円だ。
1大会あたり330億円とすると、アメリカの1,200億円の4分の1に過ぎない。
アメリカは、こうして五輪の開催期間や競技の時間などの決定に大きな影響力を持っているのだ。
7、8月開催をIOCが定めたのは2000年大会から
ほとんどの夏季五輪は1976年以降、7,8月に開催されているが、夏季五輪の開催時期を7、8月と定めたのは2000年大会からだという。
ある国際的な研究チームは、東京五輪のマラソンコースを、2016年と2017年の7月後半と8月に気温や湿度などのデータを集計した結果、選手が熱中症になるリスクが高くなるため、日陰のエリアを増やすべきだと、大会組織委員会に提言した。
組織委はこれを受け、マラソン開始時刻を、午前7時半から同7時へ前倒すことや、マラソンコースなどに太陽光の赤外線を反射する遮熱性の塗装を行うなど、考えられる幾つかの対策を講じた。
選手のことを第一に考えるべき
筆者は選手のことを第一に考えるべきで、そのためには10月か11月の開催にすべきだったと思う。
そうすれば1年延期となっても、コロナ状況はもう少し改善されて、観客を入れての開催もできたのではとも思う(結果論だが)。
オリンピックは、世界平和の理念を掲げてはいても、「運営」という現実面、つまりは「経済=カネ」で動いているということだ。
まとめ
前回の東京于オリンピックは10月に開催されたのに、なぜ2020は、猛暑の時期に行われるのか。
それは、IOCの金銭面での都合なのだ。
テレビ局(特に米国)は、スポーツイベントの閑散期である7、8月に放送することで高い視聴率を獲得したい。
そのために莫大な放送権料を支払う。
IOCにとってオリンピックの最大の収入源が、この放送権料なのだ。
たとえば、米NBCは2014年のソチ五輪から2032年までの10大会分の米国における独占放送権を120億ドル(1兆3,200億円)で獲得した。
主にアメリカのテレビ局とIOCの利害が一致した結果が、7、8月開催への変更となった理由だ。
選手のためを思えば10、11月開催であるべきだと思うのだが。
追記:この問題は7月29日、英BBCも取り上げた。↓