[小説レビュー]大沢在昌/魔物 ブラックチェンバー 絆回廊新宿鮫Ⅹ カルテット やぶへび 魔女の盟約 

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大沢 在昌(おおさわ ありまさ)

1956年3月8日生まれ 。
ハードボイルド・冒険小説作家、推理作家。
1956年生まれ。愛知県名古屋市出身。慶応義塾大学中退。
1979年 第1回小説推理新人賞を「感傷の街角」で受賞し、デビュー。
1986年 「深夜曲馬団」で日本冒険小説大賞最優秀短編賞受賞。
1991年 「新宿鮫」で第12回吉川英治文学新人賞と第44回日本推理作家協会賞長編部門受賞。
1994年「無間人形 新宿鮫4」で 第110回直木賞。
2001年「心では重すぎる」で日本冒険小説大賞。
2002年「闇先案内人」で日本冒険小説大賞を連続受賞。
2004年 「パンドラ・アイランド」で第17回柴田錬三郎賞受賞。
第一回日本推理作家協会チーフブレンダー。
2006年「狼花 新宿鮫9」で日本冒険小説大賞。
2010年第14回日本ミステリー文学大賞受賞。
2012年「絆回廊 新宿鮫10」で日本冒険小説大賞。
2013年 ロイヤルアングラー賞受賞。
2014年「海と月の迷路」で第48回吉川英治文学賞受賞。

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魔 物(上・下)

『新宿鮫 新装版: 新宿鮫1 (光文社文庫)』シリーズとは一線を画する。麻薬取締官が主人公というあたりは、さすがに警察関係に詳しい著者の本領発揮というところだが、対する相手が、なんと「魔物」。

北海道の麻薬Gメン・大塚は、ロシアと地元ヤクザとの麻薬取引の情報を得て、現場へ向かう。

そこで大塚は麻薬の押収には成功するものの、運び屋のロシア人、ロックマンを取り逃がしてしまう。

しかもロックマンは、銃弾を浴びながら何人もの警官を素手で殺害するという信じられない行動をとった。

何らかの薬物を摂取して痛みを感じないのではと推測されたが、それにしても人間業ではない。

ロックマンは逃走する際、一枚の絵のようなものを大切に抱えていた。

それが実は、ロシアの教会で100年もの間封印されていた、聖者カシアンのイコン(聖人画)だった。

カシアンには様々な伝説があり、もとは聖人だったのだが魔物となり、心に強い憎しみや恨みを持っている人間に取り憑くという。

100年前のロシアの田舎町では誰も心に邪念が無く、取り憑く相手がいなかったというカシアンだが、現代の日本は魔物にとっては理想郷。相手には事欠かない。

信仰心など無く、神を信じない大塚だが、頭を撃っても不死身のロックマンや、次に取り憑いたヤクザの高森と戦って、魔物の存在を信じない訳にはいかなくなった。

では魔物はいるのに、神はいないのか?

信仰心の厚いロシア人ホステス、ジャンナの手助けで魔物と戦う大塚は、自分の中の「魔物」とも向き合う。

長年のファンには、ちょっと意外な内容かもしれないが、大沢在昌の新境地。面白く読めた。

ブラックチェンバー

法や警察では取り締まりきれない悪、というものがある。

法を遵守していては、無法者に勝てないのだ。

組織犯罪対策2課の刑事・河合は、密輸事件内偵中に拉致され、ロシアマフィアに殺されそうになる。

そこを救ったのが『ブラックチェンバー』と名乗る組織で、刑事捜査の専門家として、河合をスカウトするのだった。

ブラックチェンバーとは、もともとは第一次世界大戦時のアメリカの諜報機関MI8の通称だが、ここでは進化する国際犯罪に対抗するために作られた地下組織だ。

犯罪組織に打撃を与えると同時に、奪ったブラックマネーを資金源にしている。

警察も手を出せない悪を叩くが、金のためでもある。

それは、正義だろうか?

大沢在昌らしさを縦横に発揮した、スピード感溢れるサスペンスだ。

絆回廊 新宿鮫Ⅹ

累計で600万部を越える大ヒットとなった『新宿鮫』シリーズ第10作目。

前作から5年ぶりに刊行された本書は、なんとネット上の『ほぼ日刊イトイ新聞』に連載されたものだ。

現在、小説そのものはネットでは読めなくなっているが、大沢在昌インタヴューなども掲載されていて楽しい。

正体不明の大男が、警官を殺すために拳銃を入手しようとしている。

そのことを知った鮫島は、暴力団関係に探りを入れ、大男の正体を暴こうとするのだが、そこに立ちはだかったのは、中国残留孤児2世で構成された新興犯罪組織だった。

日本人にも中国人にも見えることで容易に潜伏し、警察も恐れない不気味な集団に、鮫島は今までにないピンチに追い込まれる。恋人との別れも?

ファンを裏切らない面白さだ。

カルテット

8年前に何者かに家族を惨殺され、怒りだけをエネルギーに変えて、街の「ゴミ」を狩るタケル。犯人はまだ不明のままだ。

中国残留孤児3世で、日本人を憎むホウ。ホウは天才DJリンの用心棒を務め、リンだけに愛情を感じていたが、ある事件でリンは死亡する。

ヤクザの愛人で謎の美少女、カスミ。カスミの父親はどうやら裏の世界の実力者らしい?

まだ十代の少年少女が、警視庁の異端者クチナワのもと、危険を伴う捜査に取り組む。

それぞれ、目的も思いも違う4人に、次第に信頼が生まれてきて…。

やぶへび

借金苦から金目当てに引き受けた偽装結婚。相手とは決して会わないつもりだったが、「奥さんを保護しました」という警察からの電話が…。

元刑事の甲賀悟郎が初めて会う戸籍上の中国人妻・李青珠は、何かの事件に巻き込まれたのか、怪我をした上に記憶を失っていた。

金なし、女なし、仕事もなしの40歳。運命の分かれ道にはいつも女がいた。

そして、悪いほうへと転んでいった。

甲賀が刑事を辞めたのも女のせいだ。

記憶喪失の「妻」を放り出すことも出来ないが、今回も厭な予感がする…。

青珠の身元を調べてゆくうちに、謎が謎を呼び、思いもよらない危険が迫ってきて…。

さえない中年男が主人公なのに、なぜか魅力があり、大沢ワールドを存分に楽しめる。

魔女の盟約

前作『魔女の笑窪』で地獄島を脱出した水原は、韓国の釜山に身を隠していた。そこで中国人女性捜査官の白理と知り合う。

白理は、夫と息子を中国マフィアの首領、黄に殺され、復讐のために釜山へ来ていた。ある夜、水原は「組織」の人間と食事中、黄の部下の金に襲われる。

金は、白理の夫と息子を直接殺した男だった。

白理に助けられた水原は上海へ。

その後、実は「組織」に利用されていたと知った水原。

その陰謀には黄も絡んでいることを知り、白理と共に日本へ舞い戻る。

壮絶な戦いが始まった…。

前作を読んでいなくとも、面白く読める。

男の本質を見抜く能力を持つ水原の頭脳戦。白理の執念。魔女の面目躍如だ。

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